シンデレラファイトシーズン2 Final 感想文

「優勝おめでとう~!」

祝福の声が店内をこだまする。
激戦から2日経った夜、タイトルを手にした彼女は都内の麻雀Barでゲストに入っていた。

静岡県浜松市在住で、今も関東で仕事がある時は都度遠征をしており、普段は浜松の雀荘で働いている。
優勝直後であることと関東でのゲスト活動は少ないこともあってか、お客さんが入れ替わり立ち替わり入ってくる。

新榮有理(あらえゆうり)プロ
最高位戦日本プロ麻雀協会東海支部所属
47期前期、プロ2年目。22歳
1年目から最高位戦のA2リーグや女流AリーグのMCに抜擢されるなど、
注目の若手選手である。
シンデレラファイトシーズン2で同大会初出場。

自分が彼女を知ったのは今から1年前の2022年8月。
彼女の関東初ゲストの日に他のプロに会いに行ったらたまたま居合わせたのだ。その時は彼女の名前も顔も認識していなかったし、当日行くのを決めたのも気まぐれだった。

彼女の立ち振る舞いに衝撃を受けた自分は、翌週彼女が勤める浜松まで遠征をすることになる。

昔話はいったん終わりにして、Finalの感想文を書いていこう。

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シンデレラファイトシーズン2でFinalに勝ち進んだ4選手。
Finalは2試合のトータル勝負である。

※公式の観戦記っぽい感じで感想文を書きたいので、選手のみなさんのお名前を敬称略で書かせていただきます。すみません。

#1

東家:松田彩花(日本プロ麻雀連盟)
南家:長谷川栞(日本プロ麻雀協会)
西家:新榮有理(最高位戦日本プロ麻雀協会)
北家:木下遥(日本プロ麻雀連盟)

東3局

長谷川のチートイツの手順がお見事だった。

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配牌チートイツ1シャンテンから、2巡目に5pを持ってきて3p切り。
赤の有無と、2p待ちになったときのよさ。

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中を持ってきて5p切り。
赤を期待するよりも残している2p8pが筋になるのと、5p自体が待ちになると弱いということもあるだろう。細かいが丁寧な手順だ。

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8mを持ってきて8p切り。
かなり変則的な河になっているため、筋による出アガリのしやすさよりも、新榮の第1打9mをみて、8mがいつもより山にある可能性が高いという読みか。

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8mを引いて1枚切れの中と生牌の2pの待ち選択。
2p待ちでリーチ!

1枚切れの中待ちは直前に打たれているとはいえ、変則的な河になっているため字牌がケアされやすい。巡目が早かったり、相手が勝負手であれば出ることもあるかもしれないが、基本的には出アガリを期待しにくい牌である。見た目の残り枚数も含めて、2p待ちのほうがアガリ率が高そうだ。

チートイツは当然読み筋に入るが、3p5p8pすべて手出しで2pが当たるのはなかなかえぐい。特に3pから放っているのがポイントが高い。

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2pをツモり、ウラウラで30006000。
長谷川の繊細かつ丁寧なチートイツ手順だった。

「ごるはむ30」

長谷川の天鳳でのアカウント名だ。
“ごるはむ”はゴールデンハムスターの略だとして、”30″ってなんだ??

「本当はサーティーンにしたかったんですよね」と長谷川は言う。

“ごるはむ30”は”ごるはむさんじゅう”ではなく”ごるはむさーてぃ”
本当は”ごるはむさーてぃーん”(ごるはむ13)にしたかったらしい。
ごるはむ13が取れなくて30になったとのこと。

麻雀中の真剣なまなざしと麻雀中以外の柔和な語り口のギャップがよい。
好きな選手の一人だ。

南2局

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松田から白中ポンが入っているが、發が対子の新榮は大三元がないことが確定しているため58m待ちでリーチ!

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これに前巡役なしカン8pでテンパイをしていた木下が、58p待ちで追いかけリーチ!
新榮がリーチをするということは發対子以上だろうと読んだのかもしれない。ピンフのみだが強気の追っかけ。

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赤5pを一発でツモり、ピンフのみが30006000に化けた。
木下の強気の選択が実を結ぶ。

木下のよさは攻撃の感覚が優れていることだ。
自分がアガれるチャンスがあるとみるや、相手を無視してでも攻め込んでいく。
こうした押しの強さが嚙み合ってFinalまで勝ち上がってきた。

元を返せば木下は1次予選から出場である。

・東日本1次予選 47名中上位12名が東日本2次予選進出
・東日本2次予選 40名中上位12名が予選Final進出
・予選Final 本戦と同様の形式で勝ち上がり6名が本戦進出
・本戦 44名参加

とんでもない狭き門を勝ち上がってきている。
このままシンデレラまで登り詰めてしまうのではないかという勢いを感じた。

自分が木下をはじめて知ったのは今から2年半ほど前、テレビ北海道のYoutubeチャンネルを観たときのことだ。
その後紆余曲折ありながら、麻雀プロになって活躍の場を広げている。決して簡単な道ではなかったと思うが、自らの力で道を切り開いてきた。
直接お会いしたことはないが、道産子としてひそかに応援したい。

南3局

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新榮は僅差の親番でここから3mをチー。

3mだけは鳴こうと思っていたと話す新榮。ドラそばを処理し、鳴き三色に向かう。点数状況的にメンゼンで構えるよりも、相手にプレッシャーをかけつつ自在に動ける鳴きルートを選択した。
かなり実戦感覚に優れたチーではないだろうか。

1戦目は僅差の展開から抜け出した新榮がトップ。
松田は900点持ちのラスと厳しい状況に追い込まれてしまう。

#1 終局
松田 900(-59.1)
長谷川 22300(-17.7)
新榮 42900(+63.9)
木下 32900(+12.9)

#2

東家:木下遥(日本プロ麻雀連盟)
南家:長谷川栞(日本プロ麻雀協会)
西家:松田彩花(日本プロ麻雀連盟)
北家:新榮有理(最高位戦日本プロ麻雀協会)

木下は新榮に対してトップ2着で11000点差。長谷川は新榮に対してトップ3着で21600点差つければ優勝という現実的な条件が残っている。
松田も苦しい状況ではあるがまだまだチャンスはある状況。

東2局1本場

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ラス目&トータルラス目の松田からリーチがかかっているが、新榮は8sを引き入れメンホンでリーチといった。

勝負どころで自分に分があるとみるや果敢に攻めていく。
このバランス感覚が新榮の強さではないだろうか。

リーチはやりすぎという意見もあるが、これはどちらでもよい気がする。ここでアガれた時のリターンが相当大きいし、振り込んでもまだまだやり直せる状況だ。

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結果は、369p待ちで3番目にリーチをかけた木下が、松田から8000を討ち取る。松田はまたも痛い放銃となってしまう。

この日の松田はめくり合いで負けたり、手が入ったがゆえの放銃が続き、本当に苦しかった。いわば半ツキというものだろうか。

松田はプロ7年目、最初で最後のシンデレラファイトの闘いである。
魚谷侑未プロに憧れて日本プロ麻雀連盟に入り、SemiFinalでは魚谷プロの前で神懸かり的な放銃回避をして勝ち上がりを決めた。
まだまだ諦められない。

東3局1本場

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ここまで苦しい展開が続く松田だが、地獄の東単騎で小四喜のテンパイ!
ツモれば起死回生の16000オールで一気に優勝争いがわからなくなる。
東は山に1枚ある。

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役満の可能性は消えていないが、木下は強気にリーチをする。
放銃への恐怖よりアガリへの気持ちの強さが勝った。カッコイイ。

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松田から討ち取り、点数状況的に大きなアガリを決める。
木下の強気な攻撃が実を結んだ。
松田はこの手を入れて、勝負を挑まれたのではどうしようもない。

このアガリで新榮との差は現状の順位点含めてわずか200点差となる。アツい…。

東4局

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松田からリーチを受けている状況。
打1pで強気にテンパイ取りをする選択もあるが、ここは4m打ちで回っていく。とても冷静だ。

ドラ周辺で放銃するとドラが絡んで高打点の放銃につながる可能性があるし、通ったとしてもこの手はどれくらいアガれるの?というお話しである。
4mを打っても5m6m縦引きでのテンパイや3pチーで役ありテンパイを組むこともできる。柔軟な一打。

結果的には1pが当たりで放銃を回避をした。

南2局

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親の長谷川からリーチを受けて、テンパイだが8mは打たない。

テンパイノーテンの差も大きい場面ではあるが、ピンズとソーズがかなりみえていて、マンズの58m69mあたりがかなりの危険牌であることは明白だ。
打たないほうがよいと思うが、優勝がちらつき、大接戦のこの状況で平然とオリることはできるだろうか?
8mは打たないにしても白でお茶を濁したりしてもおかしくない。

テンパイノーテンで変わってしまうからという理由で押したって責められるものではないのだ。
新榮は一切甘えない。そしてとにかく冷静だ。

ちなみにこの場面、たまたま自分の勉強用にNAGA(ニシキ)に解析をかけていたので、新榮にもみてもらった。

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NAGA(ニシキ)の推奨は5sだったが、新榮は「5sは切らないなー。木下さんがきてるし」と話した。このあたりは人読みもあったのだろう。
話を聞いているとFinalに向けて対戦相手のことをよく研究してきたように思える。

NAGA(ニシキ)は木下さんのまだテンパイ率は低いという想定での打5s推奨なのだが、実際木下はテンパイをしている。ピントが合っている。

南4局1本場

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オーラス1本場、現状木下がわずかにリードしている状況。
木下がアガればその時点でGAMEENDとなる。

後がない新榮が超ド級の手を入れる。
ピンフドラ赤3でダマ12000確定の手をリーチ!

ダマならいつでも拾えそうだし、リーチしないという人が多そうだ。
新榮にも聞いてみたが「リーグ戦ではリーチしない。でも○○○だからリーチした」と話した。
戦術上の話なので伏せるが、長谷川と松田が普通に手を組んでこない状況で、ダマでかすめとるよりも木下との一騎討ちを挑んだのだ。

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テンパイノーテンでポジションが入れ替わる木下はテンパイをとった。この4sが通り、流局までに1枚アガリ牌があれば木下の優勝である。

しかし、この4sは新榮の18000への放銃。

これが決定打となった。
最終局は新榮が流局時に手牌を伏せて、優勝が決まった。

プロ2年目、シンデレラファイト出場前は決して知名度は高くなかったが、この大会でもっとも名をあげたのではないだろうか。
今後さらに期待が高まる選手である。

おわりに

3月に予選からはじまったシンデレラファイトシーズン2は幕を閉じた。
Finalに勝ちあがった4選手はもちろん、それまでに敗退してしまった選手も強いな、すごいなという思うことが多々あった。
選手のみなさま、運営のみなさま、本当にお疲れさまでした。

冒頭で書いた新榮との話を少しだけ書いて終わりにしよう。

新榮と会って話したことがある人はわかると思うが、コミュニケーション能力が抜群に高いし、頭の回転もとても速いように思う。
どんな会話に対してでも適切かつ優れた返答がくる。引き出しがものすごく多いのだ。一度会ったらおそらくほとんどの人がファンになる。

麻雀に対してとにかく真面目で、麻雀プロになった理由も純粋に麻雀が強くなりたいからという彼女。休日も雀荘で客打ちをしているらしい。

X(Twitter)は不精であるが、会ったときのファンサービスのレベルはかなり高い。麻雀プロの自分がファンの人に対してどういう接客ができるかということをしっかり考えたうえで行動しているのではないだろうか。

今年2023年1月のことだ。
自分がよく通っている雀荘のオーナーに「誰かいい人(ゲストに入れる人)いないっすか?」と言われ、自分は即座に「新榮有理さん」と答え、軽くプレゼンをした。その時点ではオーナーはあまり知らない様子だった。

自分は動いてはいないのだが、同日他の方経由で打診があったらしく、その日の夜に新榮さんのゲストが2月に決まったとオーナーから連絡を受けた。

たまたまだと思うが、めちゃめちゃ縁があるなあと思った。
これからも応援したい。

おしまい